増税時代の相続税対策

 

昨年11月に政府税制調査会から「平成18年度の税制改正に関する答申」が出され、12月には、自由民主党から「平成18年度税制改正大綱」が発表されました。この中で特徴的なことは、始めてわが国の財政状況の悪化が明確に述べられていることです。前者では「わが国は、先進国中最悪の危機的財政状況の下・・・・。歳出・歳入両面からの財政構造改革を断行して・・・・。租税を含むわが国の国民負担は、他の先進諸国と比較しても低い水準となっている。・・・今後、所得・消費・資産等の課税ベースを通じてどのような負担を求めることが適当かといった検討も含め、税体系全体の抜本的改革を総合的に議論していかなければならない。」と、後者では「・・・財政は、税収が歳出の約半分しか賄えていない状況が続いており、主要先進国中最悪の財政状況に陥っている。・・・危機的な財政状況の中、歳出・歳入一体改革への取組みは不可欠であり、平成18年からは、政府・与党一体となって、本格的な議論を進めることとしている。」としている。マスコミでは以前から報じられていましたが、平成17年から政府及び自由民主党の公式見解として認めたことになります。では、このことは何を意味するのでしょうか?。歳出削減は当然ですが、歳入増加を図りますよ!。増税します、と言うメッセージではないでしょうか?。それは、消費税の増税だけではありません。税制上、課税の公平の視点から不合理なものは、廃止改正しますという意味です。資産課税の面でも当然です。

 

一般的に相続対策と言えば、税務面では節税対策納税対策、民事の面では分割対策、精神面では後継者育成等となるかと思います。節税対策とは、納税額を節約すること、相続財産の評価額を引き下げ、及び相続財産を生前に相続人及び相続人以外の方に移転してしまうことを目的とする対策です。例えば、賃貸マンションの建設・生前贈与等です。納税対策は、納税に困らないように生前から納税資金及び納税財産(物納財産)を確保することを目的とするものです。例えば、死亡保険に加入する、物納予定財産を事前に決めておく等です。この節税対策と納税対策はある面ではクロスオーバーします。分割対策は民法の世界の話です。遺産分割の話です。揉めると収拾が付かなくなる事柄です。ただ、遺言を作成することによってある程度は回避できます。

 

資産家の皆様がたの関心があるのは、節税対策・納税対策です。また、当然ですが、課税当局が問題にするのもこの部分です。増税=節税策封じということになります。

 

では、このような時代にどう対処するのか?その対処法を考えてみました。

 

対処1 現状把握

    まず、現状(現時点での相続財産の評価額・相続税額)が把握されていなければ、万全の対策を採ることはできません。相続税の納税義務が発生する見込みもないのに、相続対策として無理に賃貸マンションを建設しても相続税の節税効果はゼロであり、建設会社等が利益を得るだけとなります。

 

対処2 余裕をもった対策をする

    現時点において、精緻な相続税対策を行っても、時間の経過と共に、世の中が変わり、税制も変化していきます。次の対処3にも関連しますが、限界ぎりぎりの過度の節税対策は、将来、税制改正が行われればその節税対策の効果はゼロになります。何事にも節度は必要です。

 

対処3 常識をもって考える

    最後に、財産評価基本通達第6項に「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められています。つまり、財産評価基本通達で定められている評価方法は絶対的なものではないのです。評価した結果が「著しく不適当」ならば、その評価方法は認めないと言っているのです。

また、現在の税務行政の流れは、一般常識で考えればおかしな評価方法で、法令通達の不備によって、節税の効果があるものは、常識に沿った評価方法へ変更される方向です。例えば、生命保険契約の権利(保険契約者/保険料負担者:父、被保険者:長男)の評価は、旧相続税法第26条により、「払込保険料の合計額×70%−保険金額×2%」で評価することが可能でした。(経過措置により、平成18331日までの相続・遺贈には適用可)が、相続時点での解約返戻金による評価に一本化されました。旧相続税法26条で評価したほうが、解約返戻金で評価したよりも大幅に安く評価できたのです。相続財産の評価は、相続時点における「時価」です。ただ、一般常識で言えば、相続時点で解約すれば返戻される金額で評価するのが当然ではないでしょうか?それを、26条で評価していたのです。現在、問題になっているのは相続税法第24条(定期金に関する権利の評価)です。平成18年度の税制改正では俎上に上がりませんでしたが、将来必ず改正されるでしょう。

従って、常に「常識」を念頭において、細心の注意を払ってことに当る必要があると考えられます。